
こどもの頃。
通っていた歯医者さんの壁に、
トーマスマックナイトの絵がかけられていた。
異国の白い建物。青い海。魅力的な観葉植物。
色とりどりのインテリア。
薄青い空に、丸い月……。
診察室にも、待合室にも、トイレにも、マックナイトの絵があった。
「リゾート」や「バカンス」なんて言葉を、当時は知らなかったけど、
「こんな場所に行ってみたいなぁ」という憧れとともに、私は飽きることなく絵を眺めた。
マックナイトの絵には、人は写っていない。
けど、たしかに、「誰か」の気配がする。
そしてその「誰か」は、たぶん「自分」なんだと思う。
だから、じいっと見つめていると、絵の世界に入ってしまったような、不思議な気持ちになっていく。
スマホもタブレットもなかった、あの頃。
歯医者の待ち時間、私はずうっとマックナイトの絵の中にいた。
静止しているのに、時として動画よりも飽きない時間を作れる、絵の力ってすごい。
大人になってもやっぱり、私はマックナイトが好きだなぁ。
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